} SERIES|世界のアーティストフィーから学ぶ |①ドイツの文化政策と報酬ガイドラインの実態 - art for all

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SERIES|世界のアーティストフィーから学ぶ |①ドイツの文化政策と報酬ガイドラインの実態

Text by 三上真理子

調査・資料作成

2023.12.11

美術分野の活動発表における報酬のあり方についてより適正な形を実現していくため、art for allではアーティストの報酬ガイドラインの策定を目指しています。そのため、報酬および経費の支払われ方について実態の把握を目的に「アーティストの報酬に関するアンケート」を実施するとともに、海外事例の調査と既存のガイドラインの翻訳も進めています。世界においてアーティストの報酬はどのような実態にあるのか? 今回は三上真理子さんによるドイツの調査結果を報告します。(art for all)

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1. ドイツの文化政策は地方分権

「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」というコロナ禍のモニカ・グリュッターズ元連邦政府文化メディア委任官の発言と、それに続く巨額の緊急支援策は、日本の主要メディアでも取り上げられ、ドイツはアーティストや文化従事者への支援が手厚い「国」という印象を与えたかもしれない[1]。しかし、歴史を振り返ってみると、「国」つまり連邦政府によるアーティスト個人への支援は、むしろ例外的だ。京都への文化庁移転が実施されつつも、未だに政治、経済、文化が東京に一極集中している日本とは異なり、ドイツは、16の州からなる連邦制をとり、地方分権が土台となっている[2]。1930年代ナチス政権下では、国家主導の中央集権的な文化政策が採用された時期こそあったが、これは統制・検閲と呼ぶべきものであったことは、その後の歴史が物語っている。その反省から、第二次世界大戦後、西ドイツでは文化芸術についても地方分権主義が徹底されるようになった。1989年の東西統一後も、この流れが踏襲されている。
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[1] 朝日新聞オンライン「申請2日後に60万円も フリーや芸術家支援 ドイツ」2020年4月5日https://www.asahi.com/articles/ASN455485N43UHBI02F.html、美術手帖「芸術支援は最優先事項。ドイツ・メルケル首相が語った「コロナと文化」」2020年5月16日、https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/21933、NHKスペシャル「パンデミック:激動の世界」取材班「文化は生きるために不可欠」文化芸術への支援 ドイツの場合は…」2021年2月20日、https://www.nhk.or.jp/minplus/0017/topic015.htmlなど多数。迅速な支援策は話題を呼んだが、不正受給が多発するなど混乱が見られた。
[2] ドイツ連邦共和國大使館総領事館「16の連邦州」https://japan.diplo.de/ja-ja/themen/willkommen/0-uebersicht-bundeslaender/950330

文化芸術の中央集権化への予防線は、ドイツ連邦政府内に、日本でいう「文化庁」が公式には存在しないことからもうかがえる。省庁の代わりに置かれているのが「連邦政府文化メディア委任官」という国務大臣級のポストである[3]。このポストは、ドイツ統一に伴い旧東ドイツの文化支援を、旧西ドイツの制度に取り組む目的で、1998年に新設されたものである。現在では、緑の党のクラウディア・ロートが就任している。もちろん、ロート委任官一人で連邦レベルのすべての文化行政関連の職務をこなすわけではなく、450人の職員を有する組織である[4]。つまり実態としては、日本の「文化庁」に近いといえよう。しかし名称一つ取ってみても、文化政策において、連邦政府よりも州政府・地方自治体を重視すべきという歴史的な背景があることは間違いないだろう。
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[3] 連邦政府文化メディア委任官ホームページ。なおホームページ上でもわかりやすさを優先してか「文化メディア国家大臣(Staatsministerin für Kultur und Medien)」という名称が使われている。https://www.bundesregierung.de/breg-de/bundesregierung/bundeskanzleramt/staatsministerin-fuer-kultur-und-medien
[4] なお連邦政府文化メディア委任官の公式ウェブサイトによると、全職員の60%、管理職の46%が女性と報告され、家族に優しい組織の認定を受けている。

このように地方分権が徹底されるドイツにおいて、コロナ禍という非常事態とはいえ、連邦政府が積極的に文化芸術を支援したのはなぜだろうか?ドイツの産業といって思い浮かぶのは、自動車産業や機械製造業というお堅いイメージがあるかもしれないが、実は文化・クリエイティブ産業はドイツで三本の指に数えられる巨大産業である[5]。コロナ禍がヨーロッパを襲った2020年時点では、自動車産業、機械製造業に次ぐドイツ第3位の産業部門であり、2021年には第2位に順位をあげた[6]。コロナ禍という非常時に、国にとって重要な巨大産業を支援することは、連邦政府にとって不可避であったのだ。連邦政府による文化・クリエイティブ産業への歳出をコロナ前後で比較してみると、コロナ前の2019年に、21億2290万ユーロだったものは、2020年には32億4600万ユーロに激増している[7]。コロナ前まで、州政府・地方自治体による支援が8割を占め、連邦政府による支援は15%未満であったものが、コロナ直撃後は25%近くまで増えているのだ。なお、2023年の予算は、23億9000万ユーロと報告されており、コロナ禍中に比べれば減額されているものの、コロナ前よりも増額となっている。ドイツにとって文化・クリエイティブ産業は、コロナ禍を生き抜いた重要な成長中のセクターなのである[8]。ただし、内訳をよく見てみると、文化・クリエイティブ産業の中で急成長を遂げているのはゲームやデザイン部門であり、いわゆる美術分野は下降気味であることには留意されたい[9]。そう、実態はそう甘くはないのだ。次章以降、アーティストフィーについて詳細に見ていこう。


Monitoring Monitoringbericht Kultur- und Kreativwirtschaft 2022, S. 14. を基に筆者作成

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[5] 文化・クリエイティブ産業の中には、ゲーム、広告、デザイン、文学、建築、放送、映画、音楽、美術、舞台芸術などが含まれる。ただしゲーム分野が急成長しており、美術分野は減退しているので、美術について語る際は注意が必要である。Bundesministerium für Wirtschaft und Klimaschutz, „Umsätze in Mrd. EUR nach Teilmärkten 2021 (Vergleich zu 2020 in %)“, Monitoring Monitoringbericht Kultur- und Kreativwirtschaft 2022, Januar 2023, S. 11.
[6] 2021年の文化・クリエイティブ産業は1,037億ユーロに達し、機械製造業(1,010億ユーロ)を追い越し、自動車産業(1,434億ユーロ)に次ぐドイツ第2位の産業となった。Bundesministerium für Wirtschaft und Klimaschutz, „Beitrag der Kultur- und Kreativwirtschaft zur Bruttowertschöpfung im Branchenvergleich 2019 bis 2021“, Monitoring Monitoringbericht Kultur- und Kreativwirtschaft 2022, Januar 2023, S. 14.
[7] Statistische Ämter des Bundes und der Länder, Kulturfinanzbericht 2022, S.16, S.22.
[8] Bundesregierung, „Kultur- und Medienetat des Bundes steigt auf 2,39 Milliarden Euro in 2023- Kulturstaatsministerin Claudia Roth: Die Kulture unserer Demokratie wirde gestärkt“, Pressemitteilung 354, 11. November 2022.
[9] Monitoring Monitoringbericht Kultur- und Kreativwirtschaft 2022, Januar 2023, S. 11-13.

 

2. ドイツにおけるアーティストフィーの歴史

ドイツでアーティストが職業として認知され、報酬が支払われるようになるまでの道のりは簡単なものではなかった。ベルリンに本部を置く労働組合ver.di(正式名称:Vereinte Dienstleistungsgewerkschaft)の芸術チームによる調査によると[10]、ビジュアルアーティスト(Bildende Künster)に対する報酬を求める働きかけは、1974年の連邦ヴィジュアルアーティスト組合(BBK: Bundesverband Bildender Künstlerinnen und Künstler)のものが最初である[11]。その後、1989年にシュトゥットガルトに本部をおくドイツ労働組合総連合(DGB)のうち、メディア産業別労働組合IGメディアが展覧会出品報酬を求めて署名キャンペーンを開始[12]、1993年までに2000名のアーティストたちが参加したという。1998年には有志のアーティストたちにより「イエロー・ライン」キャンペーンが始まり、ドイツ全国28都市、合計34の展覧会会場前に「黄色い線」が引かれ、「この線を越えた人は誰もが無報酬のスペースに立ち入ることになる」ことを視覚で訴える運動が行われたという[13]。
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[10] 文化芸術分野は、支援及び助成母体によって若干異なっている。ver.diでは、ヴィジュアルアート(造形美術)、演劇・舞台、文学、音楽であるが、NRW州では、ここに映画とニューメディア、複合分野が加わっている。
[11] Werner Jany, „Stuttgart ab 2023 kein honorarfreier Raum mehr“, ver.di, 2. Februar, 2022. https://kunst-kultur.verdi.de/kuk/++co++c2a6cbcc-0825-11ed-93ce-001a4a160111
[12] IG Mediaとは、1989年に設立された印刷・紙媒体、ジャーナリズム、アート専門従事者向けの労働組合。2001年よりver.diに合流したことで事実上の解散となった。
[13] Werner Jany, „Stuttgart ab 2023 kein honorarfreier Raum mehr“, ver.di, 2. Februar, 2022. 及び ver.di Baden-Württembergが2017年5月13日にシュトゥットガルトのWürttembergischer Kunstvereinで実施したイベントで配布したチラシ「Vergütung Ausstellungshonorar Zwei Seiten einer Medaille」参照。複数のアーティストたちがバスでドイツ各地の美術館を周り、イエローラインを引いたそうだ。実際に参加したアーティストによると、公共物の器物損害で警察を呼ばれるなど、当時は美術館側がこのキャンペーンに対して理解を示すことは少なかったそうだ。


(左)ビーレフェルトで1995年に路上に引かれた最初のイエローライン記録写真。キャンペーンとしては1998年から展開される。(Württembergischer Kunstvereinで実施したイベントで配布したチラシ「Vergütung Ausstellungshonorar Zwei Seiten einer Medaille」参照。撮影者不明。
(右)カッセルのフリデリチアヌム美術館前で実施された1998年のイエローラインキャンペーン記録写真(左からUte Würfel, Tim Eiag und Gez Zirkelbach)撮影者: Wolfram Isele 写真提供:Gez Zirkelbach

2016年になり、ベルリンが、連邦州で初めて公立ギャラリーでの展覧会参加アーティストへの報酬支払いを公式に開始した[14]。これは「ベルリンモデル」と呼ばれるようになり、2017年にはベルリンに隣接するブランデンブルク州が、2番目の連邦州としてアーティスト報酬のガイドラインを策定した[15]。しかしこれらのガイドラインは法的拘束力がないため、実際どの程度遂行されているのかは不明である。ただ、2019年にはハンブルクで、展覧会報酬のための予算が確保されるようになり[16]、2022年には、バーデン=ビュッテンブルク州都であるシュトゥットガルトで、ベルリンモデルに基づき、2023年以降、シュトゥットガルトの公立ギャラリーでの展示に参加したアーティストには必ず報酬が支払われるような草案が採択された[17]。シュトゥットガルト市文化局は、今後4年間、年間21万ユーロの予算を確約しているという。
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[14] ベルリンモデルについてはbbk berlinのウェブサイトを参照。2016年に発行された当初と比べ物価高になっているため2022年8月以降、報酬ガイドラインの改定が行われ、個展の場合は2500ユーロ(改定前1500ユーロ)、9名までのグループ展は800ユーロ(改定前500ユーロ)、10名以上のグループ展は400ユーロ(改定前250ユーロ)、30名以上の場合は150ユーロ(改定前100ユーロ)となった。なおベルリンのbbk berlinは、berufsverband bildender künstler*innen berlinの略であり、連邦ヴィジュアルアーティスト組合BBKとは異なる。なおかつてbbk berlinも、BBKに所属していたが、BBKの内部政治や硬直化から2004年に脱退している。https://www.bbk-berlin.de/was-wir-erreicht-haben.honorare-stipendien-infrastruktur#:~:text=Einzelausstellung%20(1%2D2%20K%C3%BCnstler*,*in%20(vorher%20%E2%82%AC%20500)
[15] ブランデンブルク州議会による発表を参照。Landtages Brandenburg, “Leitlinie des Ministeriums für Wissenschaft, Forschung und Kultur über die Ausstellungsvergütung für professionelle Künstlerinnen und Künstler”, 30. Juni. 2023.
https://mwfk.brandenburg.de/sixcms/media.php/9/Leitlininie%20des%20MWFK%20Ausstellungsverg%C3%BCtung.pdf.
[16] ハンブルク市文化メディア局ウェブサイトを参照。“Hamburg stärkt die Freie Bildende Kunst: Stadt baut Unterstützung freier bildender Künstlerinnen und Künstler aus – Zwei Hamburger Stiftungen schaffen zusätzlich neue Förderprogramme”, 19. Januar. 2019.
https://www.hamburg.de/pressearchiv-fhh/12063064/hamburg-staerkt-freie-bildende-kunst/
[17] シュトゥットガルト市文化局ウェブサイトを参照。”Ausstellungsvergütung Stuttgart”.
https://www.stuttgart.de/kultur/kulturservice/kulturentwicklung/ausstellungshonorare-stuttgart.php

 

3. アーティスト向け「展覧会報酬ガイドライン」と「報酬ガイドライン」

前章の「イエロー・ライン」キャンペーンや「ベルリンモデル」が示したように、ドイツではこれまで、展覧会報酬=アーティストフィーという認識であったことは、連邦ヴィジュアルアーティスト組合(BBK)が最初に発行した報酬ガイドラインが、「展覧会報酬に関するガイドライン」であったことからもわかる。しかし、展覧会の発表以外にも、そのための準備期間、アーティストトークへの参加、ティーチングの仕事、審査会やアドバイザリーとして会議への出席、キュレーション、ディレクション、リサーチなど、アーティストやアート従事者が担う多様な活動が反映されていないという指摘があった。そのため、より包括的な報酬ガイドラインとして、「アーティスト向け報酬ガイドライン」が2022年12月に発行された[18]。
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[18] Bundesverband Bildender Künstlerinnen und Künstler (BBK), Leitfaden Honorare für Bildende Künstlerinnen und Künstler, Dezember 2022. https://www.bbk-bundesverband.de/beruf-kunst/honorare

3−1. BBKとは?
BBKとは、1972年に西ドイツで創設されたフリーランスのビジュアルアーティストのためのアーティストによる連邦レベルの組合組織である。冒頭で概観したように、ドイツの文化政策では、州政府および地方自治体の権限が強く、BBKにも各州ごとに支部があるが、BBKは、連邦議員やEU委員会への提言など、州をまたがるレベルで活動し、支部を束ねる役割がある[19]。
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[19] BBKが提言を行う先としては、以下のような団体が挙げられている。Verwertungsgesellschaft Bild-Kunst, Internationale Gesellschaft der bildenden Künste (IGBK), Künstlersozialkasse, Stiftung Kunstfonds, Deutscher Kulturrat, Deutscher Kunstrat, Initiative Urheberrecht, Initiative Ausstellungsvergütung etc.

BBKの使命は、芸術と文化の自由と民主的で寛容な社会のために、アーティストという専門職の社会状況の観察と分析、経済状況や社会保障、文化政策の枠組みの改善のための提言策定である。アーティストの現状を知ることを重視しているため、デジタル時代における著作権問題やアーティストの経済・社会状況に関する調査を定期的に行っている。2023年6月現在の組合員数は約10,000人。4年に一度、会員数に応じたBBK地域協会の代表、合計約60人が一堂に集い、最新の問題について議論をしているという。

3ー2. 「報酬ガイドライン2022」の概要と構成
BBKによる「アーティスト向け報酬ガイドライン2022」で強調されているのは、アーティストは高等教育を受けた専門知識・技能をもったプロフェッショナルな職業であるということだ。建築家、弁護士、税理士がそれぞれの料金体系で技能や知識を提供しているのと同じように、自営業者としてのアーティスト(デザイナー、イラストレーター、美術史家、キュレーターなども含む)も、それまでの教育で培ってきたノウハウを提供するサービスに対して、適切な報酬を交渉し、受け取るべきだという考えに基づいている[20]。
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[20] Leitfaden Honorare für Bildende Künstlerinnen und Künstler, S. 4-5.

また職業人としてのアーティストだけでなく、これからの社会にとって不可欠な存在であると断言していることも注目に値する。アーティストが、表現の自由が依拠する民主主義的な社会の実現には不可欠な存在であること、経済活動が著しく変化する現在、持続可能な生活の実現のためにも優れた役割を担うことが社会から期待されているということ、そして社会の中でアーティストの潜在力を発揮し、高品質のサービスを提供するには、十分な報酬が必要であるというロジックが、「アーティスト向け報酬ガイドライン2022」全体に渡って適用されている。西洋型民主主義の実現に文化芸術、そしてその担い手であるアーティストが欠かせないことは、本レポートの冒頭で引用したモニカ・グリュッター氏をはじめ、歴代の連邦政府文化メディア委任官も発言しており、それを踏襲するような文言をガイドラインの中にも盛りこむことで、行政側がこのガイドラインの勧告を受け取りやすい論法になっているとも考えられよう。

上記のようにアーティストは社会的使命を帯びていることから、本ガイドラインの適用範囲は、公的資金を得ているアートプロジェクトや、公的な文化セクターにおいてであると明記されている。民間の営利団体やギャラリー、アートディーラーなど、美術作品の売買に重点を置くコマーシャルな業務での適用は妥当ではないとしているが、その場合であっても、適切な契約書を取り交わすことが強く推奨されている(すべてのケースには当てはまらないにせよ、契約書の雛形もダウンロードできるようになっている)。

本ガイドラインの主な構成として、第1章では、アーティストの時給や、アーティストが知っておくべきお金の話––例えば営業費用、法人税、社会保障、投資的労働時間の計算の仕方––そして契約書について説明されている。第2章では、展覧会報酬について、その算出方法やモデル契約書が2021年に発行されたガイドラインに基づいて記されている。第3章では、自身の作品の値段のつけ方について説明されている。本稿では、日本の未来のアート関係者向け報酬ガイドラインの参考になると考えられる、第1章と第2章について見ていきたい。

4ー1. 「報酬ガイドライン」その1: アーティストが知っておくべきお金の話

まず本ガイドラインを開いて最初に目に飛び込んでくるのが、「70ユーロ(税別)」という数字である。これは、BBKが推奨する2023年以降のアーティストの時給である(パッケージ料金が適した業務の場合を除く)。報酬をこの基準よりも引き上げる場合は、アーティストの経験実績や知名度、インフレや物価の上昇、健康リスクの高い仕事や、緊急性の度合いが考慮されるべきだとされる。また、時給ベースの報酬とは別に請求すべき項目として、材料費、運送費、倉庫代、保険料、旅費・交通費、展覧会やプロジェクトがキャンセルとなった時に発生するキャンセル料、著作権料、そして時給換算出来ないが展示に伴い追加で発生した業務に対する報酬が挙げられている。

最初に浮かんだ疑問は、この時給70ユーロというのはドイツでどういう位置付けなのだろうかという点だ。州ごとの違いが大きいものの、2022年4月時点でドイツ全土のフルタイム(週40時間)勤務の平均時給は24.77ユーロ、月収にして4,105ユーロであった[21]。男性の平均時給は23.20ユーロ、女性は19.12ユーロである[22]。この金額に比べると、BBKが推奨するアーティストの時給は非常に高い。ただアーティストのほとんどが個人事業主であり、スタジオの賃料、材料・素材料、広報料、出張費用、事務作業料、専門家への謝金などを含む営業費用、各種税金、社会保障、私生活のための費用、そして後述するが「投資的労働時間」への費用など、全て自前で払う必要があり、アーティストは「起業家」のようなマインドセットを持つべきだとも書かれている[23]。
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[21] ドイツ連邦統計局参照。https://www.destatis.de/DE/Themen/Arbeit/Verdienste/Verdienste-Branche-Berufe/_inhalt.html
[22] Handelsblatt, Stundenlohnrechner 2023. https://www.handelsblatt.com/stundenlohnrechner/#stundenlohnrechner 及び Stundenlöhne in Abhängigkeit vom Beruf. https://www.finanz-tools.de/arbeit/stundenlohn-vergleich-nach-beruf
参照。
[23] Leitfaden Honorare für Bildende Künstlerinnen und Künstler, S. 8.

では具体的にどのようにして時給70ユーロという数字が割り出されたのだろうか。ガイドラインでは、まずアーティストの活動領域、作業フェーズごとの業務内容、また必要経費の割り出しが行われている。具体的には以下の通りである[24]。
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[24] Ibid. S. 7-13.


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[25] アーティスト社会保障(Künstlersozialkasse、KSK)とは、アーティストや著述家を援助する社会保障制度のこと。通常、被雇用者の社会保険費は労使折半により雇用主が半分を負担することになるが、フリーランスにとってはすべてが自己負担であり、健康保険料と法定年金保険料は非常に割高になるが、KSKに加入できれば、KSKが半額を負担することになっている。

必要経費の中に「投資的労働時間(Investive Arbeitszeit)」が含まれていることに注目したい。通常、フルタイムで働く人であっても勤務時間すべてが直接収益につながるような労働はしていないはずだ。労働時間は、生産的な時間と非生産的な時間から構成されるが、労働時間のうち25〜35%が非生産的な時間に該当するというデータに基づき[26]、こうした非生産的な時間を個人事業主であるアーティストも、もっと考慮すべきだとガイドラインは主張する。
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[26] Leitfaden Honorare für Bildende Künstlerinnen und Künstler, S. 10. 及び Jörgen Erichsen, Lohnstundensatzkalkulation im Handwerk: So berechnen Sie…/ Schritt 2: Produktive Jahresarbeitszeit pro Mitarbeiter ermitteln, HAUFE. https://www.haufe.de/finance/haufe-finance-office-premium/lohnstundensatzkalkulationim-handwerk-so-berechnen-sie-schritt-2-produktive-jahresarbeitszeit-promitarbeiter-ermitteln_idesk_PI20354_HI1396786.html

文化芸術における「生産的な活動」には作品制作や展覧会現場での労働が当てはまるだろうが、作品を作るためには、コンセプトを練ったり、リサーチをしたり、実験をしたり、セミナーやワークショップや講演会に参加したり、文章を書いたり、宣伝や相談や資金調達のためにいろいろな人に電話やメールで連絡をしたり申請書を書いたり、契約書を作成したり、作品や展示風景を記録したり、写真や動画を編集や修正したり、それをウェブサイトにアップしたりと、目に見える作品には直結しない多く時間を要する。ガイドラインでは、生産的労働時間で得る時給は、この「投資的労働時間」の融資として計算されるべきだと主張されている[27]。
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[27] Leitfaden Honorare für Bildende Künstlerinnen und Künstler, S. 10.

こうした2種類の労働時間を考慮した上で、1年間で実際に働ける労働時間を算出する必要がある。1年は約52週あるので、一般的な会社員のように、週5回、1日8時間労働した場合、年間の労働日は261日、時間にして2,088時間である。ここから、ドイツの一般的な公務員及び会社員が取得すべき有給として定められている20〜30日(最大値として8時間x30日=240時間)、どの連邦州でも最低定められている祝日の日数である10日(8時間x10日=80時間)、そして2010年から2020年の会社員の平均病欠日数である10日(8時間x10日=80時間)を引くと、実際の労働日数及び時間は、211日(1,688時間)となる。アーティストの場合は、会社員よりも「投資的労働時間」が長く必要であることから、全労働時間の40%、つまり84日(8時間x84日=672時間)を投資の時間、つまり非生産的な時間と考えると、実質生産活動ができ、つまり「請求書」に書くことができるような活動時間は、年間127日(1,016時間)ということになる。

さらに多くのアーティストは自営業であることから、わずかな老齢年金しか期待できず、また失業保険に加入していないケースが大半であるため、長期的に見ても収入が支出を毎年上回る必要がある。老後の備え、失業保険、労災、予期せぬ収入減や不測の事態に備えて、年収の15%程度は、こうした予備金として考慮する必要がある。こうして算出された内訳は以下の通りである。

【想定される支出】
生活費(住居賃料、食費等):約23,375ユーロ(年収の約33%)
業務経費(スタジオ賃料、材料費、ウェブサイト維持費、広報費):約16,434ユーロ(年収の23%)
社会保険(アーティスト社会保障KSKの拠出金含む):約10,390ユーロ(年収の約15%)
所得税: 約9,291ユーロ(年収の約13%)
予備費:約10,670ユーロ(年収の約15%)
失業保険相当分:約960ユーロ(年収の約1%)
—–
支出合計:71,120ユーロ

【想定される収入】
時給70ユーロ x 1016時間 = 年間売上高 71,120ユーロ

Leitfaden Honorare für Bildende Künstlerinnen und Künstlerを基に筆者作成

アーティスト社会保障(Künstlersozialkasse、KSK)の調べによると、2021年のビジュアルアーティストの平均収入は17,130ユーロ、男性は20,076ユーロ、女性は14,145ユーロと、ジェンダーギャップも明らかになっている。またドイツ連邦が定めた貧困ラインの年収は15,372ユーロ、ドイツ国内の最低賃金に基づいた年収は24,960ユーロ、そしてドイツの平均収入は約50,000ユーロである。となると、ガイドラインが導き出した71,120ユーロという年収は、かなり高いという印象を受ける。諸経費を差し引くと、手取り分としては23,375ユーロとなり、今考えれば決して高給取りということではないが、それでも、現状から考えてもかなり挑戦的な数字のように思われる。
しかしガイドラインでは、貧困水準や最低賃金を基準にアーティストの報酬を算出する考え方そのものが間違っているいう主張がなされている[28]。ビジュアルアーティストの80%以上が専門教育を受け学位を持つ高学歴者であるため、ドイツの平均的な会社員の年収を基準に考えるのが当然であるというわけだ。ガイドラインからはBBKの鼓舞が伝わってくる。しかし、あまりにも実態とかけ離れすぎており、実用性に欠けているのではないかという疑問は拭いきれない。この点については、第5章で検討する。

4−2. 「報酬ガイドライン」その2:展覧会報酬について
BBKのガイドラインの第2章では、作品を展覧会に出品する際の適切な報酬算出方法が紹介されている。この算出方法が適用されるべきは、基本的には公立ギャラリーなどであり、コマーシャルギャラリー、美術商、アートフェア、オークションハウスなど、作品販売が目的であり、アーティストの収入に直結するような組織や場での展覧会の場合や、ボランティア活動として無給で運営されているオフスペースやアーティストランスペースの場合、そして展示作品の保険金額が15,000ユーロを下回る、あるいは30,000ユーロを上回る場合は、このガイドラインには当てはまらないとされている。
個展の展覧会報酬の算出に必要な3つの要素は、1週間あたりの基本料金(300ユーロ/週)、展覧会企画者の経済係数(0.5〜3.5)、そして展覧会会期(週単位で計算)である。

個展での展覧会報酬 = 基本料金 x 経済係数 x 展覧会会期

グループ展における一人当たりの展覧会報酬の算出方法は、1週間あたりの基本料金(300ユーロ/週)、参加者数係数(1/6〜1)、経済係数(0.5〜3.5)、そして展覧会会期(週単位で計算)である。

グループ展の展覧会報酬 = 基本料金 x 参加者数係数 x 経済係数 x 展覧会会期

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[28] Leitfaden Honorare für Bildende Künstlerinnen und Künstler, S. 17-21.

5. 実態とアーティストたちの声

前章では、ドイツのビジュアルアーティストの多岐にわたる活動を反映した報酬ガイドラインと、展覧会参加時の報酬ガイドラインを概観した。時給70ユーロ、年収70,000ユーロ超の推奨は、BBKによるアーティストの社会的価値や経済力向上に向けた意気込みや鼓舞が伝わってくる。BBKのアンドレア・ギージ事務局長によると、時給70ユーロは、ドイツでまっとうな経済活動を営む自営業者としてやっていく最低ラインであるという認識であるそうだ[29]。BBKは、この数字があくまで推奨であり法的拘束力は持たないことも理解しつつも、既に多くの団体が前向きな反応を示していることから手応えを感じているという。現在、この金額がより広く認識されるために、政治家と話し合い、連邦政府、地方自治体、財団、民間企業などの資金調達のガイドラインにも明記するように尽力しているそうだ。
しかし、繰り返しになるが、政治に働きかけるための達成目標数値であったとしても、実態とかけ離れているのではないかという印象が拭いきれない。ガイドラインは、経験値が高く、評価が定まったアーティストだけのためではなく、経験が浅かったり、交渉に不慣れだったり、言語など何らかの障壁がありそもそも交渉が難しいようなアーティストにとっても、実用性がなくては意味がないのではないか。実際にドイツで活動するアーティストたちは、このガイドラインを見て鼓舞されるのか、あるいは現実との比較から失望が先に立つのだろうか。複数のアーティストに簡単なインタビューを試み、本音を聞いてみた。話を聞いたアーティストたちは、インタビュー時点では教職などに就いておらず、ドイツで5年以上のアーティストとしてのキャリアがあり、公立の美術館で展示経験があり、国籍、世代、性別はそれぞれ異なっている。なお、すべてのアーティストの声の代弁ではなく、あくまで一例として紹介する。以下は筆者によるインタビューの要約である。

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[29] 筆者とのメールによるやり取りより(2023年8月)

アーティストA.
このガイドラインの存在は知っていたけれど、最新版は見たことはありませんでした。時給70ユーロというのは、グラフィックデザインや写真の仕事であればスタンダードであり、現実的な数字だと思います。しかし、こんなにたくさんの仕事が来るわけでもなく、推奨されている年収70,000ユーロ超えはかなり実態と乖離はしているとは思う。KSKの実際の収入や、貧困ライン、最低賃金を基準にするのは間違っているのはわかるけれど、それでもこの提案を実現するにはかなり難しいのではないでしょうか。とはいえ、現在、ドイツ国内の公立ギャラリーでアーティストフィーを支払うことを制度化する動きも出ており、このような非現実的な数字を上げておくことで、最終的にドイツの平均年収と同じくらいのところに落ち着かせようというBBKの戦略的な意図があるとも考えられます。

自分自身の経験を振り返ると、これまで展覧会に参加しても、片手で数えられる程度の数百ユーロしか出ないケースもあったし、制作費を自分の奨学金から出さないといけないこともありました。美術館の監視員やカフェで働く人たちの方が、よほどアーティストよりも良い時給で働いていると思うと、時々怒り、いやむしろ悲しみや無力感に襲われることもあります。だからBBKのように政治家にも働きかけるような組織は重要だと思います。しかしBBKは地域・支部によって活動の度合いが違い、今の生活拠点であるデュッセルドルフ支部は停滞気味だから、加入するのに躊躇しています。今年3歳になる子供ができてからは、アーティストフィーのない展覧会は基本的には参加しないようにしているし、そもそも引き受けられるほどの余裕はないのです。
(1978年旧東ドイツ生まれ、女性)

アーティストB.
このガイドラインの存在は知りませんでした。2000年代前半にとある美術館でドイツで初めて個展を開きましたが、美術館での個展でアーティストフィーがもらえるようになったのは2010年代後半に入ってからという印象です。しかしこれまでも、フィーがなかったとしても、コレクションのある美術館の場合は、約7割くらいの美術館が展示作品を買い上げてくれたり、制作費を全額負担してもらえるケースもあります。相手がどのような組織であろうと、宿泊費、旅費、輸送費、保険、広報を負担してくれない場合は、オファーは受けないようにしています。

アーティストに報酬がきちんと支払われることはもちろん歓迎すべきことなのですが、時給70ユーロ、あるいは年収70,000ユーロ超えを定めたこのガイドラインには同時に疑問も感じるというのが正直なところです。資本主義社会の歯車として働くことを選ばなかったアーティストたちが、労働に対して報酬を得ることを当然として受け入れること、それをガイドライン化して周りに広めようとする動きには、何か引っかかるものがあります。個人のエゴがむき出しになる競争社会よりも、地球環境を考えて全体との共存が求められるこれからの世界では、アーティストフィーで利益を出す考え方よりも、社会保障制度をより充実させていく考え方の方が、自分にとってはしっくりきます。
(1968年日本生まれ、男性)

アーティストC.
ガイドラインの方を読みましたが、かなり複雑なので、弁護士の知人にも話を聞いた上で回答します。時給70ユーロ、あるいは年収70,000ユーロが実現できたら素晴らしいと思いますが、強制はできないし、そもそもこのガイドラインが対象としているのは、外部から委託を受けて、仕事が発生するようなケースですよね。誰からの委託・依頼でもなく、自主的に作品制作をし、自主的に販売するようなケースは想定されていません。またコマーシャルギャラリー等でも適用されないとなると、実際に想定されているのは、ホテルの客室に飾る絵の制作や、政府要人の肖像画の制作、あるいは公的機関から記念碑の制作を依頼される場合などに限られているのではないでしょうか。そしてこうした大きな仕事は、無名のアーティストに来るはずもなく、世界的に名の知れたアーティストに行きますよね。ただそのレベルのアーティストは、自由に交渉することができるでしょうから、このガイドラインは不要ですよね。展覧会報酬についても、同じことが言えます。美術館等、大きなインスティトゥーションでの展示のオファーが来るのは、ある程度そのアーティストが知名度があることが前提です。また無名のアーティストが美術館での展覧会に声をかけられたら、キャリアの成功につながる展覧会に参加することが、フィーの交渉よりも優先されるでしょう。私自身、美術館での展覧会では、輸送費、保険、設営費、写真撮影費などを展覧会経費のみ負担されるケースが大半です。こういった現状を鑑みると、このガイドラインがアーティストにとってすぐに直接プラスに働くとは考えられませんし、フリーランスのアーティストには常にリスクが付きまとうということを改めて思い知らされました。
(1969年ブラジル生まれ、女性)

6. まとめ

展覧会参加報酬だけでなく、より実態に即したとされる包括的な「アーティスト向け報酬ガイドライン」が発行されたことは、アーティストやアート関係者を経済的そして社会的に正当に評価する上で、重要なことである。本ガイドラインでも、アーティストの大半が高等教育を受けており、その道の専門家であるにもかかわらず、その他の専門職と比べて経済的評価が大幅に低いことは度々指摘されており、そのため比較参照すべきは最低賃金や貧困ラインではなく、平均的な年収、もしくはそれ以上のものであるべきだという主張は、アーティストだけでなく、アート関係者を鼓舞するに違いない。

一方で、ガイドライン上の提言は、実態と乖離があり、このガイドラインの恩恵を受けられるだろうアーティストが限られている可能性は無視できない。この数字が一人歩きすることも懸念される。このガイドラインが目指そうとしているアーティストの経済的社会的な環境改善の取り組みが、一部の成功したアーティストにしか当てはまらないような数字を持ち出すことで、もっともガイドラインを必要とするようなアーティストたちが救われるどころか、除外されたり、あるいはアーティストへの風当たりが強くなる可能性もあるかもしれない。アーティストやアート従事者が不当に搾取されないことを目指すべきだが、そのためには、数字を一人歩きさせるのは得策ではない。モデル年収や作品価格というわかりやすい数字ではなく、作品制作やプロジェクト遂行にどれだけの時間や労力が実際にかかっているのか、そこに対する理解を広げる必要があろう。

最後に、個人的なことで恐縮だが、アートプロジェクトに関わってきた筆者自身について一言触れておきたい。筆者は日本の大学院を修了後、研究支援機関で勤務し、その後ドイツのベルリン、そしてデュッセルドルフを拠点にフリーランスで、キュレーション、マネジメント、コーディネーション、翻訳など、様々な形で美術業界に携わってきた。しかし、自分自身の労働に対して値段をつけることの悩ましさは、今もつきまとう。翻訳や通訳のように文字数や時間で数値化できたり、ある程度の相場がある場合はまだ良いが、キュレーターやプロジェクトマネジャーとして関わる展覧会や作品制作については、リサーチ、コンセプト作成、企画書作成、資金調達、助成金申請のための見積り集めから申請書作成、スタッフやアーティストとの連絡調整、複数言語での広報資料の作成、カメラマンや技術者、設営・撤収スタッフの手配、オープニングイベントやトークの企画、人集めのための広報、報告書の作成、各種支払いなど、外からは可視化されない労働が膨大にある。アーティストの場合は、作品の著作者として、対外的に認知される可能性が高いが、アートプロジェクトを支える人の場合は、作品が手に残るわけではないため、余計に認知されにくい。また、それぞれの業務にどの程度の時間がかかるのか、またどの程度の労力が必要か、そしてそれをどのように価値付けるか、事前にすべて計算することは難しく、外からの評価となればさらに難しい。価値付けにおいては、プロジェクトの中身や相手との関係性など、判断する要素は多数あり、それが複雑に絡まり合っているため、見積もりを作るのにも時間がかかる。本ガイドラインでは、業務を細かく分け、可視化させることで、より適切な評価につなげようとしており、とりわけ普段意識することが少ない「投資的労働時間」の考え方を重視している点は、アーティストに対してだけでなく、アート業界で働く多くの人にとっても参考になるのではないか。提唱されている数字が実態とかけ離れている可能性が高いにせよ、何かしらの具体的な数字が然るべき団体から提案されていることは、アート関係者の報酬体系をめぐる次なる議論に向けた着実なステップだといえよう。

 

 

三上真理子
キュレーター&アートプロジェクトマネージャー
東京大学総合文化研究科で比較文学比較文化を学んだのち、研究支援機関勤務を経て、現在はデュッセルドルフと東京、時々ベルリンを行き来しながら、近現代視覚文化のキュレーション、プロジェクトマネジメント、リサーチ、翻訳、執筆などさまざまな活動にたずさわる。近年のプロジェクトに「ミン・ウォン:偽娘恥辱㊙︎部屋」(ASAKUSA, 東京, 2019)、「オモシロガラ」(DKM美術館, デュイスブルク, 2021)、「Resonances of DiStances」(BOA/Kunstverein Leverkusen, デュッセルドルフ/レバークーゼン, 2021)、ハイドルン・ホルツファイント個展「こんな今だから。」 及び「Kからの手紙」(ASAKUSA, 東京, 2022, 2023)など多数。